おかんあかん

あまりに動かない母があるものに見えたお話

平日昼間、何もしない

テレビを見て

横になって寝て

おやつを漁りに台所に立つ

椅子に座って目を閉じて

ご飯の準備には人目を気にして動き出す

食べて

食器に水を張ったら

歯磨きしに行く

気分次第で

戻ってきたりこなかったり

こない時にはもう寝床

片付ける気持ちはどこに仕舞ったのか

そんなあなたは何者?

隠居するほど成し遂げたものは何もない

なんの境地?

早くに子育ても卒業

自立も放棄

都合よくすり寄り

都合よく離れる

寄生して生きていくことだけは離さない

何があっても

誰より生きようとしている

何があっても

食べて寝てそれだけで満足なのか

それだけで人は生きていけるのか

今日も足が痛いと座っている

なんのために生きているのか

10時のおやつ

コストコのケーキあるよと言ったら

すぐ起き上がってきた

目つきが違う

足は早い

この時ばかりは痛いなんて言わない

あぁ何かに似てる

母は言う「自分はいやしい」と

食べ物に対してだろう

なんでも食べれるのは幸せなこと

「胃腸が丈夫やと長生きする」義理の母がそうだったと迷惑そうに母が教えてくれた

三度の食事もおやつもご褒美も差し上げるのが娘の務め

おかげであたしは譲るという精神を学んだ

この境地は歳をとったからではない

母はずっといやしいから

あたしは家族を見守り育てる側になってしまった

父が消えて狩りをするようになったのはあたし

初めはやる気と使命感で一生懸命

自己犠牲の上に成り立つ達成感に喜びさえ感じていた

だけど疲れた

傷だらけでぼろぼろ

それでも餌を待つ奴は待っているだけ

どこかで見た

アフリカやサバンナか?

いや違う

こんなのんびりした日常

動物園のサファリだ

母は餌を待っている動物

安全な園内をゆっくり闊歩している

草原を走り回ることはない

狩りをする必要もない

餌と寝床があればいい

産んでくれた感謝

育ててくれた感謝

生きてくれている感謝

それがあるから今日も差し上げよう

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